カズオ・イシグロ著『クララとお日さま』を読みました。
その感想を綴ります。
『クララとお日さま』の作者や設定、主人公
『クララとお日さま』は、ノーベル文学賞作家、カズオ・イシグロの、受賞第一作。本編433ページの長編です。
舞台はアメリカっぽい場所(私にはよくわからない)。時代はおそらく近未来。
主人公は、聡明で純粋な少女クララ。彼女の視点から、病気の少女ジョジーとの交流と、その周囲の大人や子どもの様子が語られます。
読み始めてみると、少女クララが語っている設定なので、比較的文章は平易でするすると読み進めることができました。
読み始めると……なんかぞわぞわする
問題は、クララの聡明さにも、ジョジーの病気にも、ただならぬ事情が潜んでいること。
そのただならぬ事情が、最初はベールに包まれたまま話が進んで行きます(ここではネタばれしないように、注意して書いていきます)。
さらにクララのピュアな語り口が、かえって何かとてつもなく悪いことが起こる前触れのような気がして、一体このベールの下から何が現れるんだろうと、背中ぞわぞわしながら読み進みました。
実は私の父が先にこの本を読んでいて、「ハッピーエンドといえるかはわからんけど、まあ心温まる話やで」と感想を言っていました。
その感想を聞いていなかったら、ぞわぞわし過ぎて、途中で読むのやめてたかもしれません。最近、本も映画も、後味が悪いものは受け付けなくなってるんです。
結局のところ、そのぞわぞわが良い刺激となり、本を置けなくなって、433ページを一気に読了しました。
とてつもなく悪い出来事というのは起こらず(読み手によっては起こったと感じるかもしれないけれど)、父が「心温まる」と表現したことも、とてもよく理解できました。
だから私のように、後味悪い物語は読みたくない方も、まあまあ安心して読んでいただいて大丈夫と思います。
また聞くところによるとこの『クララとお日さま』は、カズオ・イシグロが、格差社会が進むことに警鐘を鳴らした作品だそう。この物語の登場人物は、格差社会の上に当たる人たちなんだと思うけれど、だれもちっとも幸せそうでなく、ずっと不安に震えています。格差社会に勝者はいない、ということでしょうか。
優しいだけでないクララのお日さま
さて、私の感想ですが……、一言では言うのは難しいです。確かに心温まる、ともいえるでしょう。
私までお日さまに温められたように、胸が熱くなった場面がありました。けど、読み終えた今、より強く胸に残っているのは、やるせなさという気もします。クララのお日さまは、優しいだけでなく苛烈です。
私とあなたと犬と猫とあらゆる生き物とAIにとって
今日が良い一日でありますように。ちょっとだけネタばれ
それでも、やっぱりこの物語から愛を多く受け取ったのかなと思うのは、私の毎日のお祈りの言葉が変わったから。これまで毎朝、愛犬の散歩をしながら、「あらゆる生き物に恵みがありますように」って、ざっくり祈ってたんですね。
そこに、AIが加わりました。AI、つまり人工知能です。
この物語はネタバレしちゃうと面白さ半減してしまうと思うので、なるべく慎重に書いてきたのですが、ちょっとだけ明かしてしまうと、クララはAIなんです。愛すべきAIです。
だから、「すべての人と、犬と、猫と、あらゆる生き物と、AIに恵みがありますように」、私はこの本を読んでから毎朝、そう祈っています。
本当に私とあなたと、犬と、猫と、あらゆる生き物と、AIにとって、今日が良い一日でありますように。皆にとって未来がより明るく穏やかで、幸せなものでありますように。そう心から祈りたくなる物語でした。